リンチ症候群と婦人科がん:MMR免疫染色の読み方から術式選択・リスク低減手術まで

50歳未満の子宮体がん、MMRは測る? 50歳未満の子宮内膜癌の9%に生殖細胞系列の病的変異(Lu 2007、100例) 卵巣がん

子宮体がんの術後病理で、MMR免疫染色がMLH1・PMS2ともに消失していた。「dMMRだからペムブロリズマブの適応は確認できた」で終わっていませんか。

その患者さんがリンチ症候群なら、残した卵巣の扱い、血縁者の大腸がん・子宮体がんの予防、本人の大腸内視鏡サーベイランスまで、方針が変わります。一方で、dMMR子宮体がんの大半は散発性で、全員を遺伝学的検査に回すのは現実的ではありません。

この記事では、婦人科腫瘍の立場から、リンチ症候群を「疑う→絞り込む→診断後に何を変えるか」の順で整理します。

【この記事の要点】
・子宮体がんは全例でMMR免疫染色(またはMSI検査)を行う。dMMRの約7割はMLH1プロモーターメチル化による散発性、約1割がリンチ症候群
・MLH1/PMS2消失ならメチル化解析で散発性を除外する。MSH2/MSH6消失、MSH6単独消失、PMS2単独消失はリンチ症候群を疑って遺伝学的検査を提案する
・子宮体がんの累積リスクはMLH1・MSH2で2〜6割、卵巣がんはMSH2/EPCAMで最大約4割。原因遺伝子で数字が大きく違う
・診断は術式を変える。若年IA期類内膜癌G1・AEHの卵巣温存、大腸がん手術時の子宮・付属器同時摘出、未発症者の40歳目安のリスク低減手術
・疑うきっかけ:若年(50歳未満の子宮内膜癌では9%に生殖細胞系列変異:Lu 2007)、LS関連腫瘍の家族歴・既往、重複癌など。ただし臨床基準だけでは見逃しが多いため、免疫染色が先
・日本の保険適用は、検査の目的・がん種・使用する検査法で異なる。MLH1メチル化解析と遺伝学的検査・遺伝カウンセリングは原則自費で、リスク低減手術の扱いは施設ごとに確認する。算定条件は最新の診療報酬と施設の医事課・病理部・遺伝診療部門で確認し、費用の説明と遺伝カウンセリングを行う

📌 一般の方向けに、やさしい言葉で解説した記事はこちら(産婦人科Dr.ずーの女性応援部屋)をご覧ください。

【リンチ症候群とは:定義・原因遺伝子・頻度】

定義

リンチ症候群(Lynch syndrome, LS)は、DNAミスマッチ修復(MMR)遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントが原因の常染色体顕性遺伝性腫瘍症候群です。原因遺伝子はMLH1、MSH2、MSH6、PMS2の4つに加え、EPCAMの3’側欠失(下流のMSH2プロモーターがメチル化されてMSH2が発現しなくなる)もLSとして扱います(Ligtenberg 2009)。

MMR機構が働かない細胞では、マイクロサテライトの反復数が変化する「マイクロサテライト不安定性(MSI-H)」と、MMRタンパクの発現消失(dMMR)が起こります。LSで発生する腫瘍のほとんどがMSI-H/dMMRを示すため、これが腫瘍側のスクリーニングに使われます。

MMR機能が正常な細胞と欠損した細胞の対比。正常な細胞では、複製時のエラーをMMRタンパク(MSH2・MSH6・MLH1・PMS2)が取り除く。欠損した細胞ではエラーが修復されず蓄積し、MSI-High/dMMRの腫瘍になる

dMMRとMSI-Hは何が違う?

同じ現象を「原因側」と「結果側」から見た言葉です。検査法も違うので、病理レポートを読むときに混同しないように整理しておきます。

項目dMMR(ミスマッチ修復機能欠損)MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)
意味コピーミスを直す仕組み(MMRタンパク)が働かなくなった「原因側」の状態MMRが働かず、マイクロサテライトの反復数がずれて不安定になった「結果側」の状態
検査法MMR免疫染色(IHC):MLH1・MSH2・MSH6・PMS2の4つのタンパクの発現を見るMSI検査:PCR法などで腫瘍の反復配列の異常を測定する
判定内因性陽性対照が保たれたうえで、1つ以上のMMRタンパクが欠損していればdMMR複数マーカーで不安定性を認めればMSI-H
両者の関係大腸癌では両検査の一致率は9割以上。どちらを選んでもおおむね同じただしMSH6欠損ではMSI検査がMSSになりうる。LSを疑う場面ではIHCが優先
得られる情報消失パターンから原因遺伝子を推定できる原因遺伝子は分からない
dMMRとMSI-Highの違い。dMMR(ミスマッチ修復機能欠損)は原因側で、MMR免疫染色でMLH1・MSH2・MSH6・PMS2の消失を見る。MSI-High(高頻度マイクロサテライト不安定性)は結果側で、MSI検査(PCR)で繰り返し配列のずれを測る

つまり、ICIの適応確認だけならどちらでもよいのですが、LSのスクリーニングとしては、原因遺伝子の手がかりになりMSH6欠損を見逃さないMMR免疫染色の方が向いています。

頻度

  • 一般集団の保持者:海外で279人に1人(Win 2017)、日本では297〜578人に1人(Fujita 2022、Yamaguchi 2025)
  • 子宮内膜癌患者に占める割合:海外で約3%(Ryan 2019)、日本で1.3〜3.7%(Yamamoto 2021、Kato 2024)
  • dMMR子宮内膜癌に限ると約1割がLS
  • 50歳未満の子宮内膜癌:100例の前向き多施設研究で、9%(95%CI 4.2〜16.4)に生殖細胞系列の病的変異を認めた(Lu 2007)。内訳はMSH2が7例、MLH1とMSH6が各1例。症例数が少ない単一の研究の数字で、報告により幅がある(全年齢の子宮内膜癌では約3%:Ryan 2019)
  • 卵巣癌患者に占める割合:約2〜2.6%(Mitric 2023、国内データ)

じゃあ、dMMRの残りは何かというと、多くはMLH1プロモーターの後天的なメチル化による散発性腫瘍です。ただし、メチル化がない例がすべてLSとは限らず、腫瘍内の二重体細胞変異なども含まれます。ここが大腸がんと同じで、婦人科でも鑑別の軸になります。

【原因遺伝子別の婦人科がんリスク】

LSでは原因遺伝子によってリスクも発症年齢も違います。「LSだから一律に高リスク」ではなく、遺伝子名まで見て方針を立てます。

子宮内膜癌(80歳までの累積発生率と平均発症年齢)

原因遺伝子累積発生率平均発症年齢
MLH134〜54%49歳
MSH2/EPCAM21〜57%47〜48歳
MSH616〜49%53〜55歳
PMS213〜26%49〜50歳
一般集団(日本人)2.3%60歳

卵巣癌(80歳までの累積発生率と平均発症年齢)

原因遺伝子累積発生率平均発症年齢
MLH14〜20%46歳
MSH2/EPCAM8〜38%(最も高い)43歳
MSH6≦1〜13%46歳
PMS2不明(上昇を確認できるデータなし)ー
一般集団約1.1%ー

数値はProspective Lynch Syndrome Database(Dominguez-Valentin 2020)、NCCNガイドライン、遺伝性大腸癌診療ガイドライン2024に基づきます。

リンチ症候群の原因遺伝子別の婦人科がんリスク(80歳までの累積発生率)。子宮内膜癌:MLH1 34〜54%、MSH2/EPCAM 21〜57%、MSH6 16〜49%、PMS2 13〜26%。卵巣癌:MLH1 4〜20%、MSH2/EPCAM 8〜38%、MSH6 ≦1〜13%、PMS2は一般集団と同程度

ポイントは2つです。

  • 子宮内膜癌はMLH1とMSH2/EPCAMで特に高く、発症年齢が一般より10年以上早い
  • 卵巣癌はMSH2/EPCAMで突出して高く、MSH6とPMS2では相対的に低い

この差が、後述する卵巣温存やリスク低減手術の判断に直結します。

婦人科以外の関連腫瘍

大腸癌(MLH1 46〜61%、MSH2 33〜52%、MSH6 10〜44%、PMS2 8.7〜20%)のほか、胃癌、小腸癌、腎盂・尿管癌、膀胱癌、膵癌、胆道癌、脳腫瘍、皮脂腺腫瘍(Muir-Torre症候群)があります。泌尿器系はMSH2、胆道系はMLH1で高い傾向です。婦人科でLSを診断したら、消化器内科・泌尿器科を含む包括的なサーベイランス計画が必要です。

【原因遺伝子別の特徴】

同じLSでも、遺伝子ごとに「どの癌が出やすいか」「免疫染色でどう見えるか」「診断で何に注意するか」が違います。数値は前の表(Dominguez-Valentin 2020など)に基づきます。

MLH1

  • 子宮内膜癌34〜54%(平均49歳)、卵巣癌4〜20%(平均46歳)。ただし、MLH1では子宮内膜癌より大腸癌のリスクのほうが高い
  • 免疫染色:MLH1とPMS2が同時に消失する
  • 注意:dMMR子宮体がんで最も多いのは散発性のMLH1プロモーターメチル化。必ずメチル化解析で鑑別する
  • 卵巣温存や、リスク低減手術の時期を考える場面では、MSH2と並んで慎重側に倒す遺伝子

MSH2/EPCAM

  • 子宮内膜癌21〜57%(平均47〜48歳)、卵巣癌8〜38%(平均43歳)。卵巣癌リスクが最も高い遺伝子。50歳未満の子宮内膜癌で見つかった変異もMSH2が最多(Lu 2007:9例中7例)
  • 免疫染色:MSH2とMSH6が同時に消失する
  • 注意:泌尿器系腫瘍や皮脂腺腫瘍(Muir-Torre症候群)も出やすく、婦人科以外のサーベイランスも必要になる
  • EPCAM欠失はMSH2のプロモーターがメチル化されてMSH2が発現しなくなる機序のため、免疫染色ではMSH2/MSH6の消失に見える。欠失の範囲でリスクが異なりうるので、MSH2と同一には扱わない

MSH6

  • 子宮内膜癌16〜49%(平均53〜55歳)、卵巣癌≦1〜13%(平均46歳)。発症年齢が遅めで、子宮内膜癌のリスクが目立つ
  • 免疫染色:MSH6が単独で消失する
  • 注意:PCRベースのMSI検査ではMSSになりうるため、MMR免疫染色を優先する
  • 発症が高齢のため、50歳未満という条件では拾えない。年齢だけで除外しない

PMS2

  • 子宮内膜癌13〜26%(平均49〜50歳)。卵巣癌は一般集団と同程度とされ、上昇を確認できるデータがない
  • 免疫染色:PMS2が単独で消失する
  • 注意:浸透率が相対的に低く、家族歴が目立たないことがある
  • 遺伝学的検査は、偽遺伝子(PMS2CL)の影響で技術的に難しい。検査法(施設・外注先)を確認する
  • 子宮摘出や卵巣摘出の要否・時期は、他の遺伝子より個別化の幅が大きい

じゃあ、結局どの遺伝子でも同じように疑えばいいの?というと、そうではありません。MLH1とMSH2は「若くして出る・卵巣癌も要注意」、MSH6とPMS2は「遅く出る・家族歴が目立たない・卵巣癌リスクは低め」と覚えておくと、問診と術式の説明がしやすくなります。

【LSを疑うチェックリスト:子宮体がん・卵巣がん】

子宮体がんは全例でMMR免疫染色を行うため、実際の診療では「結果が出たあとに、背景とあわせて読む」場面が中心です。家族歴や臨床基準だけでは見逃しが多く、SGO 2007の臨床基準を子宮体癌412例で検証した報告では、感度32.6%、特異度77%でした(Bruegl 2014。免疫染色とMLH1メチル化で判定した「probable LS」10.5%を基準)。だから腫瘍側のスクリーニングが先で、以下のチェックリストは「陽性だったときの優先度づけ」と「免疫染色の結果が紛らわしいときの補助」に使います。

リンチ症候群を疑うチェックリスト(子宮体がん・卵巣がん):本人の背景、家族歴、病理所見、検査結果。免疫染色が先で、背景・家族歴・病理所見は優先度づけに使う

本人の背景

  • ☐ 子宮体がん・卵巣がんの診断が50歳未満(LS関連の子宮内膜癌は45〜55歳での診断が多いとされる)。50歳未満の子宮内膜癌100例では9%に生殖細胞系列の病的変異があり、MSH2が最多だった(Lu 2007)
  • ☐ LS関連腫瘍(大腸癌、子宮体がん、卵巣癌、胃癌、小腸癌、腎盂・尿管癌、膵癌、胆道癌、脳腫瘍、皮脂腺腫瘍)の既往
  • ☐ 重複癌:子宮内膜癌と卵巣癌の同時発見、または大腸癌との同時性・異時性

家族歴

  • ☐ 第一度・第二度近親者に、LS関連腫瘍がいる
  • ☐ LS関連腫瘍が50歳未満で診断された親族がいる、または複数世代にわたる
  • ☐ 改訂Amsterdam基準IIに該当する(3人以上、2世代以上、1人以上が50歳未満で診断、1人は他の2人の第一度近親者、FAPを除外)

家族歴が不明・少ない場合も、LSの否定材料にはしません(小家系、養子、MSH6・PMS2では家族歴が目立たないことがあります)。

病理所見

  • ☐ 腫瘍浸潤リンパ球が多い、MELF pattern、高異型度・未分化な形態
  • ☐ 卵巣癌:類内膜癌・明細胞癌などの非漿液性、I〜II期

注意:LS関連子宮体癌の約6割は、典型的なMSIの形態学的特徴を示さないと報告されています。形態だけでは除外できません。

検査結果

  • ☐ MMR免疫染色でdMMR、またはMSI-H
  • ☐ MLH1+PMS2消失で、MLH1プロモーターメチル化なし
  • ☐ MSH2+MSH6消失、MSH6単独消失、PMS2単独消失(メチル化解析は不要で、そのままLSを疑う)
  • ☐ pMMRでも家族歴が強い(免疫染色の限界や、他の遺伝性腫瘍症候群の可能性も含めて、遺伝診療部門に相談する)

使い方

  • 検査結果の項目に1つでも当てはまれば、遺伝カウンセリング(遺伝診療部門)への紹介と、生殖細胞系列検査の提案を検討します
  • 背景・家族歴・病理所見は、検査結果が陽性のときに「どれくらい強く疑うか」と、紹介の優先度を決める材料にします
  • 卵巣癌は、類内膜癌・明細胞癌・粘液性癌などの非漿液性でMMR/MSI検査を行います(ASCO 2020)。散発性の代替マーカーがないため、免疫染色のパターンとメチル化解析、がん遺伝子パネル検査の結果を合わせて判断します

【診断のフロー:MMR免疫染色をどう読むか】

子宮内膜癌は全例に腫瘍スクリーニング

従来のAmsterdam基準IIや改訂Bethesdaガイドラインは大腸癌を対象にした基準で、感度・特異度の限界からLSが一定数見逃されます。現在は子宮内膜癌でも、年齢や家族歴によらず全例にMSI検査またはMMR免疫染色(MMR-IHC)を行うユニバーサルスクリーニングが推奨されています(NCCN、子宮体がん治療ガイドライン2023)。分子分類(POLE、dMMR、p53異常、NSMP)の観点からもMMR-IHCは全例で必要になります。

MMR-IHCの発現消失パターンで考える

MMRタンパクはMSH2-MSH6、MLH1-PMS2のヘテロダイマーで働くため、消失パターンから原因遺伝子を推定できます。

子宮体がんのMMR免疫染色:消失パターン別の次の一手。MLH1+PMS2消失はMLH1メチル化解析(メチル化ありは散発性、なしはリンチ症候群疑い)。MSH2+MSH6消失、MSH6単独消失、PMS2単独消失は遺伝学的検査を提案。子宮内膜癌ではBRAF V600E検査をLS除外に用いない
消失パターン主な解釈次にやること
MLH1+PMS2 消失散発性(MLH1プロモーターメチル化)が最多。LSも含むMLH1プロモーターメチル化解析。メチル化なしならLS疑いとして遺伝カウンセリング・生殖細胞系列検査
MSH2+MSH6 消失LS(MSH2またはEPCAM)を強く疑う遺伝学的検査を提案
MSH6 単独消失LS(MSH6)を疑う遺伝学的検査を提案
PMS2 単独消失LS(PMS2)を疑う遺伝学的検査を提案
すべて保持pMMR腫瘍検査上はLSの可能性が低い。ただし若年発症・重複癌・強い家族歴などがあれば、pMMRでも遺伝カウンセリングを行い、必要に応じて生殖細胞系列マルチジーンパネルを検討する

注意点が4つあります。

  • 判定は、腫瘍細胞核の染色消失を、間質細胞・リンパ球・正常腺管などの内因性陽性対照が保たれていることを確認して行います。部分的・不均一な消失、治療後検体、固定不良では、再染色やMSI検査を検討します。「薄い=消失」とは読みません
  • 大腸癌で使うBRAF V600E検査は、子宮内膜癌ではLS除外のトリアージとして有用性が乏しく、通常は用いません。子宮内膜癌のMLH1/PMS2消失例では、メチル化解析で鑑別します
  • MSH6病的バリアント保持者では、PCRベースのMSI検査でMSSと判定されることがあります。LSを疑う場面ではMSI単独でなくMMR-IHCを行い、MSSでもMSH6やPMS2の発現消失があればLSとして評価します
  • メチル化がなく、生殖細胞系列検査でも病的バリアントが同定されないdMMRは、unexplained dMMR(Lynch-like症候群と呼ばれることもある)と扱います。「dMMRの残り=LS」ではありません。主な原因は腫瘍内のMMR遺伝子の二重体細胞変異ですが、IHCの技術的な偽陽性・判定困難、検出困難な構造異常、まれなconstitutional MLH1 epimutationも含まれます。生殖細胞系列検査が陰性の場合は、paired tumor–normal解析などを検討し、遺伝カウンセリングでは「LSが完全には否定できない」と説明します

卵巣癌の場合

卵巣癌全体ではdMMR約6%、MSI-H約13%で、子宮内膜癌より低頻度です(Mitric 2023)。研究・検査法が異なるため、この6%と13%を直接比較しないでください。ただし組織型で大きく違います。

  • 類内膜癌:MSI-H 12%(最も高い)
  • 明細胞癌を含む非漿液性・非粘液性:約9%
  • 高異型度漿液性癌:約1%

ASCOのガイドライン(2020)は、類内膜癌・明細胞癌・粘液性癌などnon-serousの上皮性卵巣癌にユニバーサルなMMR/MSI検査を推奨しています。目的はLSの診断と免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の適応確認の両方です。卵巣癌では大腸癌のBRAF検査のような散発性の代替マーカーがないため、MMR-IHCのパターンに加え、必要に応じてMLH1メチル化解析やがん遺伝子パネル検査の結果も踏まえてLSの可能性を評価します。

国内データでは、卵巣癌230例のうちMMR遺伝子病的バリアント保持者は2.6%で、原因遺伝子はMSH6(45%)とMSH2(22.5%)が中心でした。

確定診断は生殖細胞系列の遺伝学的検査のみ

LSの診断は、血液などの正常組織を用いたMMR遺伝子の遺伝学的検査(Sanger法、次世代シークエンス、MLPA法)で病的バリアントを同定することによってのみ確定します。腫瘍の検査はあくまでスクリーニングです。

日本の保険の現状(2026年10月時点)

ここは患者説明で必ず触れる部分です。保険の算定は検査目的、がん種、既治療歴、使用する検査法で異なり、改定もあります。断定せず、診療前に最新の通知と施設の算定条件を確認してください。

  • 大腸癌:LS診断補助目的のMSI検査・MMR-IHC・BRAF検査は保険適用
  • 子宮内膜癌・卵巣癌:通知上、LS診断補助目的のMMR-IHCとして明記されているのは大腸癌で、婦人科がんは明記されていない。MMR-IHCは抗PD-1抗体やPARP阻害薬(子宮体癌)の適応判定目的で算定でき、MSI検査も固形癌のICI適応判定やLS診断補助目的で算定できる場合がある。個別の算定可否は医事課・病理部で確認
  • MLH1プロモーターメチル化解析:薬事承認された体外診断用医薬品がなく、研究用または自費
  • LS診断目的の生殖細胞系列検査と遺伝カウンセリング:全額自己負担(2025年1月現在、日本婦人科腫瘍学会の見解)。制度は変わりうるため、最新の診療報酬で確認する。がん遺伝子パネル検査(CGP)の二次的所見として判明する場合もある
  • リスク低減手術:費用の扱いは施設により異なるため、事前に医事課・遺伝診療部門で確認する

つまり、ICI適応確認のためのMMR-IHCやMSI検査は保険で行える一方、その結果からLSを疑って先に進む検査(メチル化解析、リスク低減手術など)は患者負担になる場合があります。遺伝カウンセリング部門と連携し、費用と意義を事前に説明したうえで提案します。

【診断が術式・治療をどう変えるか】

若年の子宮内膜癌IA期(類内膜癌G1)・子宮内膜異型増殖症

子宮体がん治療ガイドライン2023では、術前IA期と推定される若年の類内膜癌G1で卵巣温存の強い希望がある場合、危険性を十分説明したうえで温存を提案できるとされています。術前I・II期の卵巣転移率はそれぞれ5%、17〜20%です。

しかし、LSではこの一般的な指針をそのまま当てはめられません。前述の通り、MLH1とMSH2/EPCAMの保持者は卵巣癌リスクが最大2〜4割に達します。日本婦人科腫瘍学会の見解(2025)は、MSH2保持者で40歳以降に子宮全摘+両側付属器摘出をリスク低減手術として考慮するとしています。

したがって、LSの若年例で卵巣温存を考えるときは、

  • 原因遺伝子(MLH1・MSH2/EPCAMなら温存に慎重、MSH6・PMS2なら相対的に許容しやすい)
  • 年齢、妊孕性の希望
  • 早期外科的閉経の長期影響(骨、心血管、HRTの可否)

を踏まえて個別に判断します。AEHでも同じで、子宮全摘時の卵巣摘出の可否は長期の健康管理に大きく関わるため、術式決定の時点でLSの診断がついていることに価値があります。

妊孕性温存療法(MPA療法)

若年子宮内膜癌・AEHにはMPAによる黄体ホルモン療法が選択されますが、MSI-H/dMMR子宮内膜癌ではMPAの効果が低い可能性が小規模な報告で示唆されています。妊孕性温存治療を受けた20例の分子サブタイプ別解析では、copy-number low群の完全奏効率62%に対し、MSI-H群3例は全例SDまたはPDでした。ただし3例と極めて小規模で、MSI-H子宮内膜癌と生殖細胞系列のLSは同義ではないため、LSに一般化はできません。

一方で、LS関連MSI-H子宮内膜癌にPD-1阻害薬を用いて子宮温存に成功した症例報告が複数あり、早期dMMR子宮内膜癌に対するdostarlimabの臓器温存を評価するフェーズIIb試験(SATELLITE試験)も進行中です。現時点では症例報告レベルで標準治療ではありませんが、MPAが無効な場合の将来的な選択肢として知っておくべき領域です。

進行・再発例の薬物療法

MSI-H/dMMR子宮内膜癌はICIへの感受性が高く、既治療のMSI-H/dMMR進行子宮内膜癌94例を対象としたKEYNOTE-158の2025年の更新解析(O’Malley 2025)では、ペムブロリズマブの奏効率(ORR)は50%(95%CI 40〜61%)、CR 16%、PR 34%、奏効期間の4年推定値66%、PFS中央値13.1か月、OS中央値65.4か月でした。長期の奏効が得られる症例がある一方、全例が奏効するわけではありません。ORRは解析時点で異なり、初回報告(Marabelle 2020)では57.1%、2022年の解析(O’Malley 2022)では48%でした。未治療の進行・再発例では、KEYNOTE-C93が2026年7月にトップライン結果を発表し、ペムブロリズマブ単剤が化学療法に対してPFSを統計学的に有意に改善、OSは改善傾向だが未成熟とされました。HR・中央値・有害事象などの詳細は未公表で、学会発表・査読論文を待つ必要があります。卵巣癌ではKEYNOTE-158での奏効率は33%で、MSI-H/dMMRが確認されれば臓器横断的な適応として検討します。

LSと散発性MSI-H腫瘍でICIの効果に統計学的な差は示されていません。ただし、子宮内膜癌1,673例のコホートでMLH1高メチル化群はLS/Lynch-like群より全生存期間が短く、小規模コホートではペムブロリズマブの奏効率がLS/Lynch-like群100%、MLH1高メチル化群75%という報告があります。dMMRの背景機序(メチル化かLS/Lynch-likeか)が予後やICI反応性の解釈に役立つ可能性があります。

大腸がんの手術を予定しているLS女性

LS女性は大腸癌の治療後も子宮内膜癌・卵巣癌を異時性に発症するリスクがあります。挙児希望がなく、年齢・原因遺伝子・閉経状況・併存疾患などの条件を満たす場合は、大腸癌手術時に子宮全摘+両側付属器摘出を同時に行うことで、婦人科癌のリスクを減らし再手術と複数回の全身麻酔を避けられる可能性があります(Mallorca guidelines, Vasen 2013)。消化器外科から相談が来たときに、婦人科側が同時手術を提案できるようにしておきます。

【未発症者(保持者)への対応】

リスク低減手術(RRS)

未発症のLS女性に対する子宮全摘+両側付属器摘出の最も重要な根拠は、Schmelerら(NEJM 2006)の後方視的コホートです。手術群では子宮内膜癌・卵巣癌の発生を認めず、非手術群ではそれぞれ33%、5.5%に発生しました。ただし死亡率低下を示す明確なエビデンスはありません。

原因遺伝子別の考え方は次の通りです。時期は個別化が前提です。

【原因遺伝子別の考え方】

  • 共通:完成した家族計画、原因遺伝子、年齢、閉経状況、併存疾患、本人の価値観を考慮して個別化する
  • MLH1、MSH2(EPCAM):リスクが高い。日本婦人科腫瘍学会の見解(2025)では、MSH2保持者で40歳以降の子宮全摘+両側付属器摘出を考慮するとされる。MLH1も高リスク群として同様に扱われることが多いが、時期は個別化する。EPCAMは欠失範囲によりリスクが異なりうるため、MSH2と同一とは扱わず個別に評価する
  • MSH6:卵巣癌リスクは相対的に低く、両側付属器摘出の時期を一律に示せる根拠は限られる
  • PMS2:子宮内膜癌・卵巣癌リスクとも相対的に低く、手術の要否・時期は個別に検討する
  • 卵管切除後の遅延卵巣摘出は、LSでは有効性が確立していない(LSの卵巣癌はBRCA関連癌と組織型・発癌経路が異なる)

提案時に説明すべきことは、

  • 費用の扱い(保険適用の可否)は施設により異なるため、事前に確認すること
  • 両側付属器摘出は早期閉経をもたらし、HRTの要否を検討すること
  • 卵巣癌には有効なサーベイランスがないため、卵巣についてはRRSが実質的に唯一の予防手段であること

です。年齢・原因遺伝子・妊孕性・本人の希望を総合して、十分な遺伝カウンセリングのもとで個別化した意思決定を行います。

サーベイランス

RRSを受ける前、または受けない場合は、主に子宮内膜癌に対するサーベイランスを考慮します。

部位方法開始年齢間隔
子宮内膜子宮内膜組織診を中心に(細胞診で代替・併用されることもある)MLH1・MSH2・MSH6:30〜35歳、PMS2:個別に検討1〜2年ごと
卵巣有効なサーベイランスは確立していない。施設判断でCA-125+経腟超音波ーー
大腸大腸内視鏡MLH1・MSH2:20〜25歳、MSH6・PMS2:30〜35歳MLH1・MSH2・MSH6:1〜2年、PMS2:1〜3年
胃・十二指腸H. pylori陽性なら除菌。家族歴があれば上部消化管内視鏡30〜35歳1〜3年
尿路MSH2保持者または家族歴があれば尿検査・尿細胞診30〜35歳毎年
膵膵癌の家族歴があればEUSまたはMRI/MRCP個別個別

子宮内膜サーベイランスについては死亡率低下のエビデンスが確立していないため、不正出血が出たらすぐ受診するよう患者教育(症状啓発)を必ず行います。大腸内視鏡サーベイランスは3年間隔で大腸癌死亡を60〜72%減らすことが前向き研究で示されており(Järvinen 2000)、LSで唯一死亡率低下が証明されたサーベイランスです。

化学予防と生活習慣

CAPP2試験ではアスピリン600mg/日を2年以上投与した群で大腸癌の発生が減少しました(HR 0.65)。しかし日本の遺伝性大腸癌診療ガイドライン2024では、長期内服の消化管障害などのリスクから、化学予防としてのアスピリン投与は行わないことが弱く推奨されています。適正体重の維持、禁煙、節酒などの生活習慣の指導は行います。

血縁者へのカスケード検査

LSの診断の費用対効果を決める最大の要因は、第一度近親者への遺伝学的検査(カスケード検査)です。病的バリアントを持つ血縁者を特定して大腸内視鏡や予防的子宮摘出などを行うことで、将来の癌の罹患と死亡を抑えられます。発端者の診断時に、遺伝カウンセリングを通じて血縁者への情報提供を促すところまでが婦人科の役割です。

【補足:解釈で迷いやすい点】

  • ICIの適応は、MSI-H/dMMRであることで決まります。「LS由来か、散発性のMLH1メチル化か」は治療適応そのものを決める検査ではありません
  • dMMRとPOLE変異が重複する(multiple classifier)症例の分子分類上の扱いは、子宮体がん治療ガイドラインなどの規定に従います
  • 生殖細胞系列検査が陰性で二重体細胞変異が確認された場合は、LSとは別の家族リスクとして遺伝カウンセリングで説明します
  • 子宮内膜組織診・TVUS・CA125は「検出できる可能性」と「死亡率低下が未証明」を分けて説明します

【まとめ表:LSの診断が変えること】

場面LSと分かると変わること
若年IA期類内膜癌G1・AEH卵巣温存の可否を原因遺伝子別の卵巣癌リスクで判断
妊孕性温存療法MPAの効果が乏しい可能性(小規模報告)を説明。ICIは研究段階
進行・再発例MSI-H/dMMRとしてICIを検討。背景機序が予後の参考になる
大腸癌手術予定のLS女性条件を満たせば子宮・付属器の同時摘出を提案
未発症保持者原因遺伝子・年齢・家族計画に応じて個別化したRRS、30〜35歳からのサーベイランス
家族第一度近親者へのカスケード検査

【押さえるべきポイント】

  1. 子宮体がんは全例MMR-IHC。dMMRの約7割はMLH1メチル化による散発性、約1割がLS
  2. MLH1/PMS2消失はメチル化解析で散発性を除外する。子宮内膜癌ではBRAF V600E検査をLS除外に用いない
  3. MSH2/MSH6消失、MSH6単独、PMS2単独の消失はLSを疑って遺伝学的検査を提案する。MSH6ではMSI検査がMSSになりうる
  4. 子宮内膜癌リスクはMLH1・MSH2で2〜6割、卵巣癌リスクはMSH2/EPCAMで最大約4割。原因遺伝子で方針が変わる
  5. 若年例の卵巣温存は原因遺伝子を見てから決める。MLH1・MSH2なら慎重に
  6. 未発症保持者にはRRSを提示できる。MSH2は40歳以降が目安(学会見解)、MLH1は同様に高リスク、MSH6・PMS2は個別化する。卵管切除+遅延卵巣摘出の有効性はLSでは未確立。費用の扱いは施設で確認する
  7. 子宮内膜サーベイランスは30〜35歳から1〜2年ごとの内膜組織診。卵巣に有効なサーベイランスはない
  8. 日本の保険適用は検査の目的・がん種・検査法で異なる(MLH1メチル化解析・遺伝学的検査は原則自費)。算定条件を確認し、費用の説明と遺伝カウンセリングをセットにする
  9. 発端者の診断は血縁者のカスケード検査につなげてこそ意味がある
  10. MLH1・MSH2は若年で卵巣癌にも注意、MSH6・PMS2は遅発・家族歴が目立たない・卵巣癌リスクは低め。遺伝子ごとに問診と術式の説明を変える
  11. 50歳未満の子宮内膜癌では、9%に生殖細胞系列のLS関連変異が報告されている(Lu 2007、100例)。年齢にかかわらず全例でMMR免疫染色を行い、dMMRの結果を見逃さない

関連記事:KEYNOTE-868(NRG-GY018)試験:進行・再発子宮体癌に対するペムブロリズマブ+TC療法。一般向け:リンチ症候群とは?子宮体がん・卵巣がんとの関係、遺伝子検査と検診を産婦人科医が解説(女性応援部屋)

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この記事は、ガイドラインと論文をもとにAIの補助を受けて作成しました。閾値や推奨は国・学会・施設で異なります。実際の診療では一次資料を確認し、最終判断はご自身で行ってください。

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